中国経済の動向について

開催日 2001年7月11日
開催地 盛岡市
講師 みずほファイナンシャルグループ日本興業銀行参与 菅野真一郎

私が中国にかかわりを持つようになったのは、1984年に日本興業銀行の上海駐在所に赴任したのが最初で、3年間駐在しました。前半の10年間は大変なトラブルの連続でした。今回、お話する内容の大半はこの10年間の経験が基礎になっています。上海駐在後、日本に戻ってから、11年前に当時の竹下首相と中国の李鵬首相の間で合意され、日本企業の中国進出のサポートを目的に設立された通産省所管の団体である日中投資促進機構の立ち上げの仕事に携わりました。その後、91年から3年間日本興業銀行上海支店に初代支店長として駐在しました。その当時は対中投資のブームの時期であり、日本からのお客様もたくさんいらっしゃいました。上海支店長時代に交換した名刺の枚数は8,000枚、その2/3は日本企業の方でした。3年前に2度目の勤めで日中投資促進機構に事務局長として派遣されました。昨年の12月まで、2年半事務局長を務め、この間、日本企業の対中進出のサポート、トラブル処理にあたっていました。

資料・計数から見た日本の対中投資の現状

世界、日本からの対中投資は、95~96年を境に減少傾向が続いていました。ところが、2000年から増加に転じました。契約金額、実行金額、件数いずれも上向きに転じています。この動きは今年に入ってからも勢いを増しています。この大きな原因は、中国のWTO加盟がほぼ確実になり、欧米企業が盛んに中国でのプロジェクトを増やしているからです。それに呼応するように、日本企業もシェアを確保するために中国進出を活発化しています。97年7月のタイバーツの暴落を契機としたアジアの通貨危機を乗り越えて、中国は年平均7~8%の経済成長を記録しており、中国マーケットの可能性に対する期待が大きくなっています。

中国が改革・開放政策を始めたのは1979年であり、それから22年が経過しました。世界の対中投資のポイントとなる時期を説明します。

1992年を境に対中投資が非常に増加しました。1992年の1月~2月にかけて鄧小平が広東省を視察してその発展ぶりに驚き、改革のスピードが大事であると呼び掛けました。これは「南巡講和」と言われるものであり、外資導入が積極的に行われました。その後、95年までは対中投資は増加傾向にありました。

1997年は独資(100%外資)と合弁の件数が逆転した年です。それまでは対中進出は合弁形式が圧倒的に多かったのですが、97年以降は独資が増え続けています。当初は社会主義中国の実態がよくわからず中国のパートーナーを必要としていたため、合弁が多かったのです。業種によっては合弁しか認めないという規制がありました。数は減ってきていますが、今でもこの規制はあります。ところが実際、合弁企業は大変であり、中国ビジネスの実態もわかるようになりました。合弁でやっていると増産をするにも、相手の中国企業にはお金がなく増資が難しいという問題に直面しました。国内販売で中国の国営企業網を活用できると思ったら、彼らはモノの売り方を全く知らないため役に立たないことがわかりました。そのため規制が緩んだこともあって、独資の件数が増えてきました。1979年~2000年までの対中進出の累計件数は中国側の発表ですと362,265社(新規と増資の件数)ですが、実際に稼動しているのはこの半分の約170,000社です。それ以外は建設中かなんらかの理由で頓挫しています。

中国の対外債務額は1,500億ドル弱です。この倍の金額である3,484億ドルが利払いなし、返済の必要がない直接投資の実行金額です。中国の外貨準備高は今年の6月末で1,790億ドルです。対外債務の1,500億ドルと外貨準備の1,790億ドルを足したものが直接投資の実行金額とほぼ等しく、直接投資の額がいかに大きいかがご理解いただけると思います。

地域別の対中投資の推移では、97年のアジア通貨危機を契機にアジアからの投資は年々減少しており、逆にアメリカからの投資が増加しています。ヨーロッパからの投資も増加基調にあります。対中投資もグローバル化が進んでいます。

国別の投資件数、投資実行金額で一番多いのは香港、マカオで全体の半分を占めています。次に多いのはアメリカ、日本の順番であり、外国では日本は2番目に位置しています。98年までは日本はアメリカを抜いて1位でしたが、最近はアメリカが追い上げてきたため、日本は2位に下がりました。

日本の対中投資の推移は世界の傾向と同じであり、92年以降急激に増加し、96年以降減少傾向にあります。しかし、昨年は増加に転じました。1979年~2000年までに進出した日本の企業数は累計で約20,000社です。実際に身元がわかる企業数は20,000社もなく、約4,500社の身元がわかっており稼動しています。投資の実行金額は281億ドルです。

日本の中国地域別の投資件数では、1993年では遼寧省が一番多く、全体の1/3を占めていました。1999年では、遼寧省のシェアが10.8%に減少し、上海を中心とする華東圏が42.8%に増加しました。東北地区のシェアは相対的に下がり、華東圏が急速に拡大しています。この理由は、昔は安い労働力を求めて日本に馴染みのある大連地区を中心に、縫製加工業が進出していました。その後、中国が経済成長するのに伴いモノが売れるようになり、日系企業の進出動機の85%が中国の国内マーケットを求めて進出するようになりました。内販案件が増えたために、経済集積度が高い華東地区にどんどん日系企業が進出しました。今でもこの傾向は変わっていません。

対中国直接投資の中国経済へのインパクトを①対国内総固定資産投資比率、②対工業総生産比率、③税収、④従業員数、⑤輸出比率の項目から調べてみると、金額、シェアの点において外資の進出が増え、生産力が高まったことにより、すべての項目が増加しています。一番典型的なものは従業員数であり、都市部の就業者と農村における非農業従事者が合計で3億8,000万人いますが、そのうち20人に1人以上、5.7%が外資企業で働いています。一番顕著な項目は輸出比率で、2000年の輸出比率は47.9%です。中国は今や輸出入額で4,700億ドルであり、世界で7番目の貿易大国です。その約半分が輸出であり、外資企業が稼いでいます。これも年々シェアが上がっています。そのため、中国政府は外資企業が立ち行かなくなる政策を段々やりにくくなっています。また、中国のWTO加盟が確実になっており、中国でビジネスがしやすくなるでしょう。

改革開放政策から20年が経過し、GDPでは改革解放前(1952年~78年)が平均+6.1%、改革解放後(1979年~98年)は+9.7%を記録しました。1997年のGDPは世界第7位ですが、中国は人口が多いだけに1人当たりのGDPはまだ145位です。食糧生産は耕地面積の拡大により、近年では毎年5億トン以上の穀物生産を記録し、自給率は100%近くを達成しています。工業生産は重工業偏重からバランスのとれた形で重工業、軽工業が発展し、第3次産業も発展を遂げています。

固定資産投資は公共投資と民間設備投資の合計であり、改革解放後の20年間で17兆元です。ドルに換算すると、この期間にドルの切り下げが数回行われており、正確なドルの数字を出すことはできませんが、この内、外資利用の累計額は4,039億ドルで、固定資産投資額の約15%を占めています。この20年間で外資は中国経済の発展のうえで重要な要因であると言えます。

日系企業の対中投資動向

日系企業の対中動向の大きな特色は、92年~95年にかけて、対中投資が大きく盛り上がったことです。これを第3次対中投資ブームと言っていますが、96年以降は、国内の不景気、企業のリストラ、円安等に起因して減少傾向が続いています。その後、2000年以降は増加に転じており、現在の勢いは92年~93年のブームの様子を呈しています。その証拠として、新聞が取り上げる中国関連の記事の多さが挙げられます。今年1月から半年で中国投資、中国経済の私の記事ファイルはすでに700枚ぐらいになっています。これは中国のWTO加盟への期待、中国マーケットの期待が背景にあります。既に進出している家電機器、オフィスオートメーション機器などのメーカーベースでは、国際的な価格競争力をつけるために中国の工場における低コストを武器にして中国の生産拠点の集約化を図っており、この動きが増えてきています。その中には既存工場の増設、新しい分野にも進出しようとしています。例えば、日本で作っていたレーザービームプリンターなど高度な技術を要するものを日本で作っては価格競争力に対応できないため、全面的に中国に生産を移管する動きが起きています。また、中国のWTO加盟後は輸出・輸入にわたる関税の引下げが実現され、中国製品の輸出が非常に有利になります。相手国は最恵国で全部輸入してくれます。集約した生産拠点が輸出基地にもなります。

従来、中国で作った部品は中国国内へ供給され、品質面は少し劣っていましたが、この1年ぐらいの間に品質は相当に上がる一方、コストは全然上がらないため、自社の他の拠点へ供給しています。マツダやキャノンのように、中国で作ったものを日本や欧米各国の生産拠点に供給する動きも起きています。ユニクロに代表されるような日本国内の価格破壊競争に対応するために、開発輸入をするところが非常に増えています。

中国での生産は従来、為替動向の影響を受けていました。日本に輸入する場合、円安になるとコストが上がるため、円安時はその動きがパタリと止まりました。円高になると投資件数、相談件数が増加します。これらが従来の対中投資の特徴でした。最近の動きは為替の動きに関係ありません。絶えず、増加傾向にあります。為替の変動以上に中国製品の品質向上、低コストなどのメリットにより、対中投資が増加しています。このような現象を捉えて新聞では中国の「世界の生産基地化」、「輸出基地化」という見出しが踊っています。

この背景には中国の各方面における水準の向上が挙げられます。

そのなかの1つとしてインフラ整備により交通移動の時間が短縮され、部品産業の立地がしやすくなりました。メーカーに瞬時にモノを運べる、あるいは工場立地をする場合にメーカーの集積している土地の高い所に行かなくても、車で1~2時間離れたところに工場を作ることができます。品質の向上の事例として、トヨタ自動車の常務が国内の部品関連メーカー30社のトップを連れて、中国の各メーカーを回って彼らに感想を求めたところ、中国の技術は日本の一歩手前まで来ているという意見がでました。

次に経営管理の向上が挙げられます。昔は中国人と商売をしても平気で約束をキャンセルする、代金回収ができないなどの問題がありましたが、現在ではそういうことは非常に減ってきました。中国の国有企業の経営者が非常に若返ってきて、国際的な感覚を身に付けています。また、資質を備えた豊富な人材がたくさんいます。2,000人の女工を調達するのに、計画を立案して1週間位の研修を含めて3週間で彼女らをラインに立たせることができます。100~200人くらいの求人でしたら、工場の周りの電信柱に広告を貼れば5~6倍の人がすぐに来ます。しかも、その人たちは内陸から数年間の期限付きで出稼ぎに来ています。一生懸命お金を貯めて、家を1軒か2軒建てられるほどのお金を貯めてから農村に戻ります。農民戸籍の人は都市部で働けない、住めないという制約があります。都市部で働ける間にお金を貯めて帰っていき、農村からは次から次へと新卒者が出てきますから、うまく回転しています。給料は最低賃金410~430元、日本円で6,000~7,000円です。これに残業代が付きますが、多くて800~1,000元、10,000~15,000円で彼女らは働きます。しかも、優秀で手先が器用で動態視力がものすごく良く、3,000~4,000人いても眼鏡をかけている女性はまずいません。工場見学に行ってみると、彼女らはひたむきに働いています。何千万円もするオートメーション機器を購入するのはむしろロスであり、女工を雇った方がコスト的にはるかに安いと言えます。

3番目の特色は最近ではソフト方面の中国進出、中国企業へのアウトソーシングの動きが非常に顕著になってきています。この動きは特に半年以内に現われています。

4番目は水面下ながら、石油化学、製紙等大型素材プロジェクトが動き出しました。このような素材が中国でできれば、中国進出した場合に日本から原料を輸入しなくても、中国現地で調達できるというメリットがでてきます。

5番目は傘型企業(持株会社)を中国で設立する動きが加速しています。傘型企業は本社を北京に置いている例が圧倒的に多く、6~7割を占めています。ところが、中国で実際に商売をすると商売の話は上海が圧倒的に多いため、北京駐在員は1週間のうち半分は上海に駐在しています。上海シフトが非常に鮮明になってきています。そのため、今後中国進出を考える場合、そういった動きを頭に入れて地域を選定するべきです。駐在員の役職も従来は部長クラスでしたが、商売の規模が大きくなるにつれて役員が駐在するようになりました。

6番目はR&D(研究開発)センターが設置されてきています。将来の上場対応のための中国現法関係会社合併等、現地化推進の動きもあります。

欧米企業の対中投資動向

欧米企業の中国ビジネスは80年代から一貫してマーケット志向です。従って上海地区への進出が非常に多いです。おそらく、進出件数の半分は華東地区であると思われます。しかし、進出件数の増加に伴い、トラブルも顕在化し、増加傾向にあります。主なトラブルとして①政策・法令運用の透明度が低い、②許認可基準が不明確、③手続きをもっと簡略化してほしい、④知的所有権が守られない、などが挙げられます。

中国のWTO加盟の意義

中国のWTO加盟も11月に最終的に決まるであろうと見られています。中国のWTO加盟で留意しなければいけないことは、中国が関連国内法をどのように整備するかということです。中国の国内法の解釈と実際の運用をよく見極めることが重要です。一方、中国がWTOに加盟すれば、様々な面での規制緩和、市場の開放が進みます。

中国市場の魅力

中国は大きな国であり、市場規模が大きいです。携帯電話では98年の普及台数は1,034万台、99年が1,800万台、2000年は4,200万台、2001年は6,000万台と見込まれています。来年にはアメリカを抜いて、普及台数で世界のトップになるという予想もあります。このほかにも、中国は様々な面で市場が拡大しています。中国の給料が日本円にして8,000~10,000円で、どうして100,000円の大型カラーテレビが売れるかという疑問が出ると思いますが、中国の家庭は99%共働きです。実際の生活費は片方の収入でやりくりでき、片方の収入がすべて残ることになり、年間10万~20万円残ります。基本的に将来の生活設計の心配はないということです。そのため、年間1~2回は耐久消費財を買えるという仕組みになっています。都市部だけで3億人いますから、相当モノが売れるわけです。

中国進出にあたっての留意点

製造業が合弁をやる場合、中国側との交渉、事前調査で注意しなければいけない点の一部をご紹介します。

(1)進出事業部門

進出事業部門は最も得意とする製品、分野で進出するべきです。中国にはお金、設備、技術がないため、中国側のパートナーは全部、外資に頼ります。ただ、単に新規事業のコスト削減のために中国進出してもトラブルに巻き込まれるのは目に見えています。最初はノウハウ、人材がある分野で進出するべきです。

中国で外資企業が活動すると、自動的に輸出入権が付与されます。中国国営企業のどこにでも輸出入権があるわけではなく、WTOに加入すると3年以内には殆どの企業に貿易権が付与されるため、この問題はなくなりますが、今のところはまだ極めて限定的です。外資企業だけが特権として貿易権が与えられ、自分が製造するのに必要な原料、部品を直接輸入することができ、製造したモノは直接自分で輸出できるということが保障されています。安心して自分でモノを作って輸出するために税関へ持っていくと輸出許可証の提示を求められます。外資企業といえども、この製品は輸出許可品目のため輸出許可証が必要であると税関側は主張します。許可証がない場合は、中国国営の貿易会社を通して輸出しなければいけません。貿易会社を通すと国内取引になるため、収入は人民元になります。外貨が手に入らないほか、手数料は輸出価格の5%になり、利益がなくなってしまいます。輸出許可書を申請した場合、事後申請は認められていません。これは外資企業に知らされていない内部規定です。輸出許可品目は年々変わってきており、中国のWTO加盟後この制度はなくなり、この問題は解決します。あえて取り上げたのは、中国側から予めポイントとなるような情報開示が事前に示されないということに注意してほしいためです。

2番目のポイントは早期進出です。輸出で中国マーケットをずっと抑えるのは不可能です。必ず中国は国産化を狙って世界中の企業に働き掛けます。国産化が図られた場合には、今度は輸入のための外貨割り当てなどでいろいろと制約をつけて、国産品を使わせようとします。今まで輸出で稼いでいたのが、パッタリと止まってしまうという例は医薬品、農薬、鉄鋼、自動車などたくさんあります。そのほかに「投資制限項目」に留意する必要があります。中国国内の技術、生産が間に合っている分野では外資といえども来てほしいというわけではありません。そのため、中国へ簡単には進出できなくなります。それはリストで発表されており、合弁でなければ進出できません。この会社との合弁なら認める、製品を7割以上輸出するなら認める、100%輸出するならOKであるなど非常に厳しい条件が付きます。そのため、進出するなら早く出た方が良いわけです。WTO加盟後はリストの見直しが行われ、規制緩和の方向に進み、投資制限項目も段々減ってくると思いますが、依然として残ることは間違いありません。早期進出のもう1つの理由は部品・原材料メーカーの場合に日本で取引のない大手メーカーとの取引の可能性、実例が中国では大いにあるからです。

中国へ進出するうえでの鉄則は「小さく生んで大きく育てる」ということです。中国は合弁といっても出資金、現金はありません。大体、土地、使い物にならない機械、うわべだけを装った建物などを現物出資します。中国側と話をしているとプロジェクトがどんどん大きくなります。彼らはお金をかけませんから、大きくすればするほど儲かるため、中国側のペースに飲まれないように最初のプロジェクトは見極めをつけて進出するべきです。これで中国ビジネスのノウハウを蓄積し、中国ビジネスに携わる人材の育成を図ることが賢明なやり方であると思います。

(2)進出地域

進出地域を見てみると、先ほど華東地区が圧倒的に多いと説明しました。しかし、業種、目的によっていろいろと違います。

ひとつ言えることは1カ所で中国全土のマーケットに対応することはとても無理です。理由は物流の問題です。高速道路はアメリカと同じ規模で年間2,300km伸びていますが、まだまだ足りません。鉄道の輸送コストは距離が長くなればなるほど割安になるため、利用価値は高いです。しかし、民間が貨車を確保するのは非常に難しいです。なぜなら、貨車の7割は石炭や食料の輸送に使われており、国益が優先されています。

もう1つの理由は売上債権回収の問題です。モノはいくらでも売れますが、中国人から代金を回収することは難しいです。中国の様々な地域にある国際投資信託公司が借金の踏み倒しをやろうとしています。したがって、買ったモノの代金を払わないことは日常茶飯事のことです。手形法ができましたが、全国的な手形決済制度がまだできていません。掛売りは非常にリスキーであり、遠隔地に掛売りはしない方がいいです。日系企業もそのため様々な工夫をしています。あるラーメン屋は取立ての担当者を全員女性に代えました。中国国有企業の経理担当者の8~9割は女性です。この理由を中国人に聞いてみたところ、中国人の男性は経理など細かい仕事をすることが苦手であり、私も実際中国人と付き合ってそう感じました。国営企業の女性経理担当者に女性が代金の取立てに行くことで回収率が上がったそうです。

また、中国には人口が1~1.7億人規模の経済圏が5つ(東北・華北・華中・華東・華南)ありますから、その中から、ターゲットを絞っていったら良いと思います。

(3)合弁パートナーの選定

良いパートナーに巡りあえれば事業の7~8割は成功であると言われていますが、私もその考えに賛成です。どのようにして、良いパートナーに巡りあうかが問題ですが、これにはマニュアルはありません。ケースバイケース、あらゆる角度から調べなければいけません。

我々が相談を受けて感じた点をいくつか紹介します。行政トップの紹介は、注意する必要があります。この背後には個人的なコネ、天下り先確保、赤字国有企業の押しつけなどのケースが圧倒的に多いためです。また、必ず複数社(4~5社)の候補先を比較検討してください。一社しか紹介されない場合、断りにくく、角が立ちます。断った場合、仕返しがあることがあります。中国人のブローカーは絶対排除してください。彼らは成功報酬が目的であり、早く調印させ貰うものをもらったら、姿を消します。中国側のパートナーは単数が望ましいです。いろいろな些細なことの積み上げによって外国企業が手を出せないくらい複雑な闘争になるからです。香港・台湾企業との共同出資は基本的に賛成ですが、永年の取引関係があって信頼関係ができていることが大前提です。どんなにマスコミで有名な華僑の人でも、初めて紹介されて一緒に組んでやることは絶対にやめてください。中国側に渡った途端に言葉の不自由がありませんから、中国側同士がつるんでしまいます。

(4)入念な事前調査

進出する際に入念な事前調査が必要です。経験豊富な商社、銀行、専門家などからのヒアリングと実地調査で、中国パートナーとの交渉チェックポイントをリストアップしてください。中国で製造業をやる場合、中国国内の部品調達がコスト削減、外貨の節約になりますが、「見本」での判断は危険です。今でもこの事故は絶えません。中国側は綺麗なモノを持ってきます。値段も安いため魅力的ですが、発注した後貨車を開けたら虫食い、雑物の混入というケースが食料、繊維、鉱産物の分野で多々あります。しかし、中国の品質は着実に向上していますから、一度発注してダメでも、先住日本人にヒアリングして根気よくパートナーを探してください。

外貨バランスは現在、基本的に解決しました。昔は合弁をする場合、7割以上輸出する必要があり、原料・部品調達のための外貨は自分で調達することが義務づけられていました。しかし、今はこの制度はありません。96年12月に中国がIMFの8条国に移行したのに伴い、経常取引、貿易取引、ロイヤリティー・配当金の支払は定められた契約書のコピーを銀行の窓口に提示することによって、中国で営業している邦銀からでも外貨を調達することができます。まだ禁止されているのは、個人の外貨保有と資本取引、証券取引の外貨交換です。中国で事業を営む場合の外貨調達は必要帳票を提示することによって可能です。しかし、中国側パートナーの資金調達力は依然として問題です。朱鎔基首相が中国の金融機関にこれ以上不良債権を発生させてはならないと言明しています。この動きは徹底しており、赤字の国有企業に対する貸出が非常に厳しくなっています。前日まで心配ないと言っていた企業が当日になって借入れできなかったケースがたくさんあります。中国側のパートナー企業に資金面で大きく依存する場合は注意する必要があります。

工場用地のインフラ整備のチェックも必要です。国道が一本通っていて、広くて値段が安い土地がありますが、これを選ぶのはやめてください。多少値段が高くてもきちんとインフラが整備された工場団地を選んでください。すぐに工事を着工することができます。しかし、そのような場所でも安心できません。例えば、電力の容量、周波数の安定性、電圧の安定性、工業用水の水質などを確認してください。

公害規制は日本と同じくらいに厳しいです。合弁パートナーが工場から汚水の垂れ流しをやっていても、彼らはお金がないため行政側は目をつぶっています。外資企業が同じようなことをすると、設計段階から非常に厳しいチェックを受けます。そのため、そういうことを織り込んで投資計画を立てないと次々と追加資金が必要になります。これも環境保護局と環境庁へ相談に行くと話をよく聞いてくれて、対処策を教えてくれます。そういう手間隙を省かないことが大切です。

土地代の問題で大事なことはすべての土地の所有権は中国にあります。パートナー企業が現物出資している、合弁会社で借りている、そこから買った場合でもこれらは土地の所有権ではなく使用権の問題です。したがって使用期限があります。商業用は最長40年、工業用は最長50年、住宅用は最長70年で平米当たりいくらというのが相場です。土地代が高い、安いという場合は最長年限で平米当たりの数字を指しています。聞いていた相場よりも5割も安かったといって喜んでいても、実際は相場の4割安ということがあります。中国人と交渉をしていて思ったより安いというケースは殆どありません。

人件費では高卒の製造業のブルーカラーは月平均12,000円であり、日本の人件費と比べたら圧倒的に安いです。しかし、職位、業種によって開きがありますし、雇用の需要と供給が逼迫しているところは給与が高く、金融業がその典型です。既に中国へ進出している同業種、同地の日系企業からヒアリングするなどして、ふさわしいレベルで給与を決める必要があります。外資企業の場合は、法律で定められた福利厚生費などを積み立てなければいけません。大体手取りの60~65%です。労働組合費は社会主義中国では会社が負担し、手取りの2%です。ボーナスは年1回か2回ですが、外資企業の影響で2回が定着しています。1回当たり1か月分で計2カ月分のボーナスを用意しなければいけません。収支見通しを立てる場合、人件費は本人手取りの2倍を計上する必要があります。

有給休暇は今までは年5日しかありませんでしたが、2年前から、経済成長を維持するために内需拡大を図り消費を活発にしようと、有給休暇が増えました。現在では20日ぐらいになっています。中国は男女平等であるため、女性の夜間勤務は問題ありません。

中国での工場建設では中国のゼネコン、日系のゼネコンなどいろいろとあります。日系のゼネコンは適正利潤を確保するためにコスト的には中国の2倍かかります。それでも日系のゼネコンに発注する理由は一旦契約したら赤字になっても工事をやり遂げるからです。中国のゼネコンは同じケースの場合、追加費用を請求します。このケースも経験者の話を聞き、ゼネコンの実績を調べておくべきです。

事前準備だけでこれだけ問題があると、中国で合弁企業をするのは難しく思われるかもしれませんが、中国の進出ブームに乗って進出することはやさしいことではありません。慎重に対応する必要があるということです。我々はそのために進出企業が失敗せず、余計なコストを払わなくていいようにサポートをします。

対中投資のキーワード

(1)中国は大きな国

欧米の経済指標と比べて低いところもありますが、絶対数は大きいです。中国で5%伸びるということは日本では50%伸びるということです。そのため、中国はマーケットとして非常に可能性を秘めています。

(2)定点観測

中国はダイナミックに速いスピードで変わっています。2、3年前に中国を見ていてそれで経営判断するのは危険です。少なくとも、経営者の方は年に2、3回は中国を見ていただいて、変わりようを実感した上で経営判断をしていただきたい。

(3)小さく生んで大きく育てる

(4)「さんま」

「まじめ」で「まめ」で「がまん強い」経営者、経営幹部が中国ビジネスでは不可欠です。

(5)現地化

中国のWTO加盟後、中国国内では企業同士の競争はますます激しくなり、ヒト、モノ、カネの現地化が進みます。特にヒトの面で中国人を育て上げて活用することが大事です。欧米企業はこれが進んでいます。日系企業でも5、6年前に進出しているところは課長以上の役職に就いている中国人が出ています。

(6)日中投資促進機構

「転ばぬ先の杖」、「駆け込み寺」として大いに活用してください。

(7)共存共栄

日本は成熟した市場であり、お金も設備も技術もあります。しかし原料がなく、市場も飽和状態です。中国は市場の可能性は大きく、資源も無限にありますが、お金、設備、技術がありません。この点で中国と日本は補える関係であります。