日中国交正常化30周年記念講演会

開催日 2002年11月15日
会場 ホテル新潟
講師 中華人民共和国駐日日本大使館領事部参事官兼総領事 張立国
主催 同実行員会(新潟県、新潟市、新潟日報社、ERINA)
報告書 ERINA BUSINESS NEWS Vol.35

邱国洪臨時大使が急用のため東京を離れられず、代わって私が参りました。知事、市長に表敬訪問し、新潟県、新潟市の行政責任者がいかに中国に親近感を持っておられるかを肌で感じました。この会場には中国人も20数名おり、臨時大使からもよろしくとのことでした。

新潟には2年前、新潟県華僑総会の惠京仔会長の招きで参りました。新潟には以前から深い印象があります。一つは私自身のことで、生まれは遼寧省ですが本籍は黒龍江省にあり、新潟市の姉妹都市ハルビンに近い阿城県で私の祖父、父が生まれました。第二は田中角栄元総理が新潟県出身で、今年は中日国交回復30周年に当ります。田中先生は、30年前に重大な政治決断をされ、中日国交正常化を成し遂げた有名な政治家です。中国では「水を飲むとき井戸を掘った人を忘れてはならない」ということわざがあります。中日関係の迅速な発展を喜ばしく思うとき、今は亡き両国の見識ある政治家の方々を偲ばずにはいられません。

中国は1978年から改革開放と近代化建設に着手し、その総設計士は鄧小平先生です。この20年間、中国人民の努力により改革開放は大きな成果を挙げています。次の6つの特徴で説明したいと思います。

第1に、中国の総合生産能力が増えたこと。1978年の改革開放当初、中国のGDPは3,600億元でしたが、2000年には8兆9,400億元に達し、物価上昇などの要因を差し引けば実質6.4倍に成長しました。2001年のGDPは9兆5,900億元に達し、米ドルで1兆1,600億ドルの相当し、世界6位にランクしています。今年上半期のGDPは7.8%増で、通年7%増の目標が実現できるものと思います。今年の中国の外貨準備高は今年6月の統計で、2,428億ドルに達し、日本に次いで世界第2位にあります。中国全土の電話回線は3.5億人、携帯電話は1.9億人、インターネット使用者は5,600万人に達しています。

第2は、社会主義市場経済体制を確立した。以前の中国の経済体制は計画経済で、旧ソ連に準じたものでした。1993年から市場経済を取り入れ、市場を資源配置の基礎とし、同時にマクロコントロールを強化・改善することにより、経済の全面発展を促進し、インフレを克服し、デフレ問題もある程度解決しました。アジア金融危機の試練も乗り切りました。現在、中国製品の価格は98%が市場によって決定されています。
第3は、産業構造を合理化した。第1次産業の比重は1978年の28%から15%に下落し、第2次産業は48%から51%に上昇しました。長年、経済発展を制約してきたエネルギー、原材料供給、交通運輸能力の不足などのネックも明らかに緩和されました。産業技術レベルは大幅にあがり、ハイテク産業の発展は早く、一部の技術資本集約型産業は国民経済の中で重要な位置を占めるようになりました。

第4は、科学技術水準をすみやかに高めたこと。中国の科学技術者の総人数は世界一で、超伝導材料、宇宙科学技術、遺伝子情報、バイオテクノロジーなどの分野で成果を挙げています。教育事業も目覚しい発展を遂げ、現在、大学在学人数は700万人を超えています。

第5は、全方位開放局面を基本的に形成したこと。WTO加盟は、中国経済と世界経済を一体化しています。対外貿易総額は5,000億ドルを超え、GDPの43%を占めるようになりました。累計外資利用総額は5,600億ドルに達し、直接外国投資は3,900億ドルを占めています。

第6は、生活レベルがめざましくあがったこと。改革開放以来、中国は7億の就職口を創り出し、就職問題を基本的に解決しました。国民の消費行動と生活の質がめざましく変化し、いくらかゆとりのある社会になりつつあります。

昨日、中国共産党第16回大会が閉幕しました。大会では、今後20年の国民生活に、いくらかゆとりのある目標を提示しています。中国のこれからの行方は、3つの大きな出来事が密接に関係してきます。1つはWTO加盟後の進展、第2は西部大開発戦略の成功、そして北京オリンピックの開催です。

2001年12月11日、中国はWTOに加盟しました。いま中国政府は、WTOの規則を厳しく守り、市場のさらなる開放、国際協力の拡大のために、さまざまな具体的な措置を取っています。例えば、貿易について申し上げれば、2002年1月1日、5,000種類以上の商品の輸入関税を大幅に引き下げました。関税の全体水準は15.3%から12%まで下がりました。今後もさらに下がると思います。

第2に非関税措置について、2002年1月1日から食糧、羊毛、綿、アクリル系合繊製品、繊維、タクロン、ポリエステル、化学肥料、タイヤなど、製品の割当ライセンス管理を完全に撤回しました。そのほか、WTO規則にそぐわない一連の法律・法規を改正、廃棄しました。サービス・貿易分野については、一部の重要分野において、外資の中国進出のための新しい法規・条例を交付しています。例えば、在中国外国法律事務所管理条例、外資投資企業管理規定、外資保険会社管理条例などです。さらに今後、銀行、証券、保険、観光などの分野で外国資本を強化します。すでにアメリカや日本の銀行は中国に入っています。5年以内には外国独資の旅行会社の設立を許可することになっています。

第3に、知的財産権の分野で、2001年と2002年に、特許法、特許法施行規則、著作権法、計算機ソフトウエア保護条例などの法規の改正を完成しています。これらの改正により、知的財産権の保護は、立法面において貿易に関する知的財産権協定に見合うようになりました。
第4は、投資分野について、中国立法機関は中外合資企業法、中外合作企業法、外資企業法など3つの外資直接投資などと関連する基本法とその施行規則の改定を行い、外国投資企業に対する高い税率を切り下げ、外国人が航空券、乗車券、乗船券、入場券などを購入するとき、公共施設を利用するときの二重価格基準を撤廃しました。

西部大開発は、中国政府が行う大きな事業の一つです。中国の東部と西部の経済格差は長期的に存在しています。中国の沿海地域は非常に豊かになり、西方はまだ貧しいところがあります。西部開発の意義は、国民がともに裕福さを実現し、社会安定と安全を保持するものです。また、国内の有効な需要を拡大し、経済の持続的かつ迅速な成長を実現するものです。また、いま中国で行われている近代化建設の第3段階戦略目標の実現にも密接な関係があります。西部大開発の方法は、インフラを整備すること、生態環境保全を強化すること、産業構造を調整すること、また科学技術と教育を発展させ、人材育成を加速することです。交通網の整備については、北京から西安・貴州までの鉄道を敷設中であり、西部の豊かな天然ガスを東部に送ること、西部に発電所を建設して電力を東部に送ること、西部の観光事業に力を入れています。

2008年、北京でオリンピックまであと6年あります。オリンピックの開催は中国にとっても、北京にとっても大きなことです。オリンピック開催による直接的・間接的収入は1,000億元を超すものと見込まれています。この収入により、北京をより良くすることができると思います。国内外の企業と関連組織を受け入れ、大気汚染対策を立て、生態環境建設に資金を注ぐことができます。さらに北京のスポーツ施設の整備、住宅建設などにも投資することができます。北京市は少なくとも150万人の就職口が提供できます。また、中国と世界の相互理解をさらに増進し、いっそうの友情と支持を獲得することができると思います。

中国の経済改革が成功を収めている一方、中国政府は数年来、政治体制改革についても努力しています。第1に、社会主義民主制度が完備しつつあります。現在、中国の村クラスの首長が直接選挙によって選出されています。県と市の副市長クラスは、地方議会に相当する現地の人民代表大会の代表によって選挙が行われています。適任でないものは落選します。

第2に社会主義法制建設が強化されつつあります。中国政府は国民に対し、法律に従って行政を行うことを提唱しています。例えば公務員の違法犯罪行為はもちろん法によって裁かれます。

第3に、共産党の指導方法と国政の指導を改革し、完備化することです。中国共産党委員会、人民代表大会、政府、中国人民政治協商会議の間の関係をさらに強化すると思います。全国人民代表大会は、政府に対する監督を強化し、法律も整備する予定です。

中国共産党第16回大会では、今後の中国の発展目標を定めました。それは2020年までに国民生活の水準を高め、一人当たりGDPを3,000ドルにアップし、2050年までには近代化を基本的に実現し、民衆文明国家にすることです。

最近、休暇で北京に戻りました。2年半ぶりの北京の変化には目を見張るものがありました。一つは、北京の都市建設の早さです。北京の環状線は今までに第3環状線までできていましたが、この2年半の間に2つの環状線ができています。第4環状線と、あとわずかで第5環状線も全部できます。第6、第7環状線の工事も予定されています。

地下鉄は現在2つの路線があり、2008年までにさらに4本の地下鉄路線と2本の電車路線を建設する予定です。将来的には、マイカーに乗る人は3割、地下鉄利用者が5割、自転車利用者が2割の予定で、北京の足の便を整備します。

商業の発展も整っています。これまで北京市内には王府井、西単といった商業地域がありました。いまは他に朝陽門、崇文門、中関村といった商業地域が形成されつつあります。また、たくさんのデパートができ、いまは日本のイトーヨーカドー、フランスのカルフールなどスーパーマーケットが人気です。イトーヨーカドーは地上4階、地下1階、物が豊かで、商品は中国製ですが8割以上に日本の文字が入っており、日本でも販売しているもののようです。地下は食料品フロアで、鮨、漬物など日本で食べるものも並んでいます。私たちの任期は4年ですが、北京に戻っても日本の食べ物を買うことができます。

北京では2つのホットな話題があります。マイカーブームとマイハウスブームです。最近はトヨタ、日産も中国に進出しています。すでに生産をはじめ、11.9万から13.9万元の値で人気を博しています。5年後の目標は30%シェアを占めるという発表がありました。
国交正常化30年に当って振り返ってきると、両国の関係は一言でいえば良好なものです。いろいろな問題が生じましたが、両国政府の協議によって解決してきました。

まず、中国外交における日本の位置付けをお話します。日本は中国のパートナーか競争相手か、これは中国の対日政策を決定付ける重要な問題です。結論から言えば、日本は中国の協力パートナーであり、競争相手ではなく、日本との長期かつ安定した善隣友好関係を発展させることが中国の基本的な対日政策です。国家発展戦略の角度から見ると、中国はもっとも大きな発展途上国であり、中心任務は経済を発展させることで、安定した国際周辺環境が必要です。日本は中国の重要な近隣国であり、世界第2位の経済大国でもあります。日本との友好協力関係を発展させることは、中国が良好な国際周辺環境を構築する重要な要因の一つです。日本からすれば、世界で発言し、反映を維持するには、同じように中国の理解と支持を取り付けなければならないと思います。双方にはパートナーになる願いがあるばかりではなく、その条件も整っています。経済利益の角度から見れば、中日両国経済は相互補完性が強く、競合する点が少なく、広々とした協力の前途があります。

マクロ的に、中国は豊富な資源、安い労働力、潜在する巨大市場があります。日本は充実した資金、進んだ技術、優秀な人材があります。
貿易状況はここ数年間、バランスが取れています。昨年の中日貿易額は877億ドルで、中国がやや黒字で、基本的にバランスの取れたものです。今年上半期は477億ドルで、日本がやや黒字でした。

国際地域の角度から見れば、中日両国の間には若干、不一致があるものの、共通利益は不一致より大きく、全体的にはパートナーであり、競争関係にあるものではありません。不一致は主に政治と安全保障分野にあり、地域経済協力、国際犯罪の取り締まり、環境保全など幅広い分野において利益を共有しています。政治分野においても、中日双方が公正かつ合理的な国際政治経済新秩序を構築するに当り、利益を共有しています。中国は多極化を主張しており、日本はその中の重要な一極であると認識しています。大国間協力は世界平和の拠りどころです。

文化的体系と価値観の角度から見れば、中日は同じくアジアの国であり、文化的背景と価値観を共有しています。互いに影響しあい、漢字が中国から日本に伝わり、近代は日本の漢字文化を中国が少なからず取り入れた事例があります。このような相通じる文化的背景と価値観は、双方をパートナーならしめる素因であると考えています。

事実上、1998年、江沢民首席は訪日した際、新世紀における相互関係を平和と発展のための友好協力パートナーシップと位置付けました。

次に、当面の中日関係と今後の発展についてお話します。第1に、中日関係の発展は曲折があったりするものの、相対的に良好なものであると評価できます。30年間の発展の過程を見れば、中日関係は大いなる発展を成し遂げ、両国に重大な利益をもたらしました。人的往来は1万人弱から、300倍の300万人に達しています。昨年、日本から訪中した人は250万人以上、中国から日本を訪れた人は40数万人に上りました。貿易総額は10億ドルから、90倍増の900億ドルに接近しています。友好省県と友好都市は、220組以上に増えています。近年の状況を見れば、政治面において両国はハイレベルの往来を保っており、政治対話のパイプはうまく機能しています。経済上、互恵、相互補完の協力関係は絶えず進化し、昨年の貿易総額は877億ドルに達しており、前年比5.5%増えています。

世界経済が全般的に不調な状況下、中日間の貿易の勢いを保ちつづけていることは、双方の協力の潜在力が十分に大きいことをうかがわせるものです。中日両国は近隣国であり、いささか問題と摩擦があることは正常なことです。肝心なことは冷静に対処し、適切に処理することです。いま歴史認識と台湾問題は、中日関係発展を邪魔する主な問題になっています。この2つの問題を適切に処理していくことは、中日関係により穏やかな政治環境を創り出すことにつながります。歴史問題については、歴史を鏡とし、未来に向けるべきです。台湾問題については、中日共同声明の原則と精神を守り、一つの中国という原則を守るべきだと思います。中日関係の発展過程で生じた新たな問題、例えば農産物摩擦とかは、事実を明らかにした上で、話し合いを通じ、国際法と双方合意の協定に照らして解決すべきものです。中日両国は広範な共通利益の基礎、長い友好協力の伝統と共同の文化的背景があります。いかなる問題が発生しても、常に解決策を探し出せるものであり、前途は非常に明るいものがあります。

中日関係をより健全かつ安定的に発展させるために、次のようなことを強化することが考えられます。第1に、協力を拡大すること。第2に、真の信頼関係を構築すること。第3に、問題を予防し、解決する狭義メカニズムをつくること。第4に、民間の友好を大いに発展させることです。

今後の進め方では、次のことを考えています。第1に、協力を拡大し、問題と不一致を最小限にすること。中国の発展を脅威ではなくチャンスをとらえることです。中国は問題を抱えているものの、発展こそ確実なものであると考えられます。小泉首相が中国の会議で、中国は脅威ではないと明言しました。第2に、交流を強化し、信頼を増進すること。問題をこじらせないように極小に抑え、人的交流を拡大する。これからこの2つのことに双方が力を入れていくことが、両国の関係に大切なことです。

一昨年9月には、中国公民の団体訪日の緩和がなされました。初年度は18,000人の観光客が中国から日本に参りました。今年は3~4万人が日本にやってきます。年毎に倍以上の増加率です。問題は、観光ビザの規制緩和をすること。いまは北京、上海、広州の人だけが日本に来ることができ、他の都市の人たちはビザがもらえません。日本の内政干渉はしたくないのですが、両国民の交流が非常に大切で、それこそが真の草の根交流だと思っています。

さらに、いま日本にいる中国人は、最近の統計では40万人を突破しています。帰化した人は5~6万人います。中国籍を持っている人と日本に帰化した人を私たちは華人と読んでいますが、両方あわせると50万人に近づいています。中国の留学生もたくさん日本に来ています。最近の統計では4~5万人います。中国の留学生のためにいろいろご支援をいただいておりますが、日本の大学は公立と私立の2通りあり、いろいろと問題があります。例えば、寮を探すこと、アルバイトを探すこと。地方はいいのですが、東京ではなかなか難しいところがあります。せっかく日本に来た以上、日本の方々の暖かいご支援をいただきたいと思っています。

さきほど知事、市長とお話をしましたが、新潟と中国は非常に密接な関係にあります。新潟から上海・西安への西方航空の定期便があります。また、ハルビンへの北方航空の定期便があります。知事の希望としては、この2つの航空路を拡大し、他の中国の都市につながる航空路をつくってほしいという話がありました。私も同感で、中国と新潟との交流はこれからさらに増えると思います。この2つの航空路では需要を満たさないと思いますし、さらに航空路が増え、新潟から他の都市に飛べる航空路をつくることは良いことです。また、黒龍江省と新潟県の間では友好関係が結ばれ、毎年、人的交流が頻繁に行われています。ハルビンと新潟市は姉妹都市であり、毎年交流が盛んに行われています。友好都市の関係で、黒龍江省と新潟県の交流がさらに増えること、ハルビンと新潟市の人的交流がさらに増えることを大使館として望んでいます。

知事、市長とお会いする中で、領事館誘致の話が出ました。昨年、知事、市長がそれぞれ大使に会って直接陳情され、中国に対する暖かい気持ち、中国とさらに関係を強化する気持ちがよく分かります。大使が責任を持って新潟県と新潟市の領事館誘致の書類を中国外交部に送付しました。外交部は現在、検討中です。

結論がいつ出るか、よく分かりません。いま、共産党第16回大会が終ったばかりで、これから来年3月にかけて政府の人事異動があります。少なくともこの期間中は無理だと思います。新しい人事が配備されたあと、新しいことが検討されると思います。さきほど国際交流課長の案内で新しいシンボル、新潟のコンベンションセンターを見学させていただきました。31階から新潟の街全体を見ました。非常に強い印象を受けたのは、街の真ん中に大きな川が流れ、大きなビルが建ち、特徴のある街だと感じています。

きょうは臨時大使に替わって私がやって来ました。コンベンションセンターの現場の説明では来年5月にオープンするそうですが、そのとき私は大使に勧め、もう一度ここに来て、次元の高いレベルの話、臨時大使もできない話を大使から直接皆様方にお話してもらったほうがいいと思っています。