2012年11月12日 まちなかキャンパス長岡(長岡市民大学)
新潟県立大学
石川 伊織
新潟にはマンガ家が多いらしい。「新潟県出身の有名人」というサイトによると、「……新潟県出身者は49名。上位に東京(120名)、北海道(61名)、大阪(47名)、神奈川(38名)、福岡(33名)と大都市圏が並ぶ中、人口比で突出する新潟県。……」となっている。どうやら、「多い」というのは人口比らしい。
しかし、1997年の朝日新聞社刊『AERA Mook コミック学のみかた』(1997年5月20日)に掲載の吉野国夫「全国縦断! マンガで町おこし」によれば、この時点での筆者の調査では、首都圏を除く地方在住のマンガ家は240人。うち、関西以西で180名、とある。ちなみに、この記事では、新潟県在住のマンガ家は羽入六男氏のみ。この15年間で新潟出身のマンガ家が爆発的に増えたわけではないはず。吉野氏の分析はそもそも間違っている。
とはいえ、分布が西高東低である理由として、吉野氏は、
を挙げる。ならば、「新幹線があるから日帰りできる」も理由になるはずで、西高東低のわけを説明しきれていない。
ところで……この分析は「地方在住者」のお話。1.で見たのは「新潟出身者」だった。話がずれている。では、「新潟のマンガ家」というのは誰のことを指すのか? 加えて、そもそも「マンガ家」とはどういう人を指すのか? それが不明。マンガを描いてご飯が食べられる人? では、アシさんたちは? 同人紙を出している人たちは? 母集団の取り方も、分析対象の定義も不明なのだから、そもそも、この議論はあまり意味がないのでは?
新潟出身のマンガ家が多い理由としてよく言われるのは、「雪が降るから」。たとえば、「新潟文化物語」というサイトでは、日本アニメ・マンガ専門学校の小池利春氏が、そう発言している。しかし、新潟県中が豪雪地帯であるわけではない。「雪が降るから家にこもってシコシコマンガを……」というのなら、「雪が降るから家にこもってシコシコ小説を……」というのもありだろうが、実際にはそれはない。なぜ?
着目すべきは、マンガというジャンルの生産・流通・消費の特殊性ではないか?
日本の文学活動は、江戸時代以降、詩歌を中心とする同人活動と、大手出版社の主導による読み本の普及という二つの流れによって支えられてきた。明治に入っても、この趨勢は同じ。同人が衰退するのは大正期。与謝野鉄幹・晶子の東京新詩社が衰退するのは大正の始めで、決定的になるのは関東大震災。これ以降、文学は小説が中心的なジャンルとなり、職業文筆家が成立する。それ以前はアマチュアの投稿と経済的支援によって、中央で有名な詩人が同人誌の全国版を主宰するという形をとっていた。この同人誌のもとに、地方の小さな同人誌が多数存在していた。職業文筆家の成立は同人誌の衰退であり、地方の文学活動の衰退であり、文学の中央集権化である。今では、詩で飯が食える職業的な詩人はおとぎ話でしかない。
マンガは、戦後、大手出版社に独占されながら、しかし中央集権化を免れている。描き手と読み手が相互に支えあう仕組みが成り立てば、マンガは地方で生き続けることができる。
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最終更新日:2013/07/27(加筆修正)