令和4年度
令和4年度入学式学長式辞
新潟県立大学に入学された385名の皆さん、入学おめでとうございます。新入生の皆さんはもとより、皆さんを支えてこられました御家族や関係者の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。
皆さんは、この2年余りの間、世界に広がる新型コロナウイルス感染症に直面し、いくつもの苦難を経験したと察します。そうした困難を乗り越え、本日、新潟県立大学の仲間として迎えることができることを本学の教職員一同、大変嬉しく思っています。
皆さんは、これからの大学での学びにどのような期待を込めているでしょうか。ここで、イギリスの哲学者であり思想家であるジョン・スチュアート・ミルがスコットランドのセントアンドリュース大学で学生達に語りかけた言葉を引用します。「専門職に就こうとする人が大学から学び取るものは、専門的知識そのものでなく、専門分野の技術的知識に光を当て、正しい方向に導く一般教養である」と述べています。また「知性あふれた専門職業人にするのは、職業人として必要とされる技法の伝達によってではなく、教育によって与えられる知的訓練とそれにともなう思考習慣とによってである」とも述べています。ミルが語りかけたのは150年前であり、細分化された専門分野からなる現代の大学教育にミルの言葉がストレートに当てはまらないかも知れませんが、ミルが語った大学における教養教育の重要さは今も変わることはありません。
皆さんが学ぶ学部や大学院の課程では、知的訓練をし、思考習慣を育む課程と職業人としての専門知識を習得する課程とが組み合わされています。その内容は学部や研究科によって幾分異なるでしょう。国際地域学部や大学院国際地域学研究科では、英語はもちろんのこと、ロシア語、中国語、韓国語の高度な運用能力を学び、また、国際関係・比較文化に関する専門を深めつつ、知的訓練をし、思考習慣を身につけるための修学に取り組みます。国際経済学部では、経済・産業・企業に関する専門的知識、データ・情報分析力、国際コミュニケーション力を高める英語・露中韓の語学力を習得します。経済学は職業的専門知識を習得する実践的分野と考えられるところもありますが、ミルは、経済学を知的訓練にふさわしい科学であるとしました。人間生活学部は専門的職業と深く結びついています。保育・幼児教育、社会福祉、健康、栄養、食品開発におけるプロフェッショナルとして活躍するにふさわしい専門知識やスキルを数多く修学するために、多くの時間が配分されることになります。
専門知識を習得し、専門性を深めるための学びは、皆さんがやがて社会で活躍するための職業的基礎を形作るものであり、大学教育における重要な部分でありますが、同時に、大学は知性あふれた専門職業人を育む知的鍛錬の場でもあります。
本学は「国際性の涵養」「地域性の重視」「人間性の涵養」を教育理念とします。世界の人々とのコミュニケーションを深め、世界の地域や人々を理解する上で、語学の力は不可欠です。この2年間のコロナ禍で、本学の学生が海外に留学することも、海外の学生が本学に留学することもままなりませんでしたが、オンラインによる学習は、国際的な共同学習を容易なものとしました。本学の学生達は、語学力を高めつつ、交流協定校を始めとする海外の大学の学生達とオンラインにより共同で学習する教育プログラムに取り組んでいます。
デジタル化社会は我々が経験する最も大きな社会変革と言えましょう。皆さんにはこれからのデジタル化社会をリードしていただきたいと思います。そのためには、情報・データを把握し、読み、分析し、社会に生かすためのスキルの習得に取り組む必要があります。本学には理工系学部がありませんが、デジタル教育を積極的に進めます。先月、経済学と健康栄養学を結びつけた本学のデジタル教育は、数多くの大学の中から優れた教育プログラムとして選ばれたことはその一端を示します。データサイエンスの素養は、皆さんがどのような職業を選択しても、デジタル化社会において活躍するための基礎となります。
皆さんは、これまで新型コロナウイルスの感染から御自身を守り、周りの人への感染を防ぐために様々なことを経験してきたと思います。大学は、皆さんが安全に勉学に取り組むことができるように、感染防止に万全を尽くします。一旦収束したかに見えても、新たな変異株が発生し、感染症はまだ収束しているわけではありません。皆さん一人一人が油断せずに、大学が皆さんにお伝えする感染防止の情報に注意し、感染防止に心がけて下さい。大学は、感染防止を図りつつ、教育効果を最大限に発揮するために、対面による講義、演習、実習を実施する方針です。
今日からの大学生活は皆さんにとっての新しい出発点です。それを待っていたかのように本学に新しい学舎が建設されました。皆さんの修学環境は一段と素晴らしいものとなります。本学のキャンパスにおいて、教師や友人達と触れ合い、知性と人間性を養い、人生を豊かに生きるための基礎を作り上げていただくことを期待いたします。
ご入学、誠におめでとうございます。
令和4年4月7日
新潟県立大学長 若杉隆平
令和4年度卒業式学長告辞
本日、新潟県立大学を卒業される学士240名の皆さん、卒業おめでとうございます。ご臨席を賜りました高橋新潟県議会総務文教委員長をはじめご来賓の皆様、列席の役員、副学長、学部長をはじめとする教職員一同とともに皆さんに心からお祝いを申し上げます。
皆さんが晴れて本日のよき日を迎えることができたのは、もちろん皆さん御自身の研鑽によるものですが、この日に至るまでの長い年月にわたり、皆さんの成長を支えてこられたご家族の方々の御支援はなくてはならないものであったと思います。ご家族の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。
皆さんの大学生活はとても苦難の多いものであったと思います。3年以上にわたる新型コロナウイルス感染症がようやく収束し始めた今、皆さんは変容した新たな社会に向けて船出しようとしています。戦争、飢餓、そして疫病は人類存亡の三大危機といわれますが、680万人が亡くなり、6億人を超える方が罹患した新型コロナウイルス感染症がいかに深刻であったかが分かります。ご自身あるいは身の回りで苦難に見舞われた方も少なくないと察します。
この間、人々のコミュニケーションや交流が滞り、連帯が薄れることになりました。我々の大学においても大きな試練がありました。感染症から身を守る努力をしつつも、教師や学生仲間との交流が滞り、海外留学を断念した方も少なくなかったと思います。しかし、そうした中で皆さんは、我慢強く立ち振る舞い、ICTを駆使したオンラインによる新たなコミュニケーションと学びの仕組みを見事に修得してきました。
オンラインは、対面でのコミュニケーションを完全に代替するわけではありませんが、人との交流や学習の革新的手段として大きな役割を果しました。とりわけ、移動を伴わずに交流や学習をする上で大きな威力を発揮しています。また、人との交流や繋がりは能動的に働きかけることによって得られることを皆さんは身をもって体験されました。
こうした経験を重ねて、今、社会は大きく変容しています。新型コロナウイルス感染症に対処しつつ皆さんが学んだコミュニケーションの大切さやICTによる革新的情報伝達の手法は、実社会や学術の世界でこれから活躍される皆さんにとって貴重な拠り所になるに違いありません。
我々は、今、世界に様々な分断が生じていることを目にします。言論・思想信条・政治活動の自由を基盤とする日本や欧米の民主主義国家がある一方、異なる国情の下には異なった形の民主主義があるとする民主主義専政国家が見られます。両者が相互不信に陥れば、平和な交流や自由な経済取引は遠のき、分断が深まります。そうした分断は、地球上の限られた資源の下で人類が共存してゆく上で望ましいことではありません。ロシアによるウクライナ侵攻が一日も早く平和的に解決することを願いながらも、悲惨な戦争が1年以上たっても終わらず、おびただしい数の人々を悲惨にし、哀しみと分断をもたらす現状は、決して容認できるものではありません。
違いがあることを認め合うことはお互いを理解し合う上での原点です。違いのあることがもとで相互不信やジレンマに陥ることは避けねばなりません。皆さん一人一人には、コミュニケーション力を高め、相互の違いを理解し、共有し、尊重する叡智と寛容さを身につけ社会の構築に貢献されるよう望みます。
皆さんは、本学において良き教師や友人に恵まれ、広い視野と深い学びを育んできました。国際地域学部の皆さんは高度な語学力、国際社会や文化を理解する専門性を修得しました。人間生活学部の皆さんは子どもの教育や食と健康を担うプロフェッショナルとしての専門能力を身につけてきました。大学で修得したものは単なる知識の集積以上のものです。皆さんがこれからの長い人生において学び続ける上で必要とされる知の基盤となるでしょう。学業だけでなく、皆さんは、学内や内外の友人との繋がりを深めてきました。こうした繋がりは、これからの人的ネットワークを豊かにする基礎となるでしょう。
皆さんが本学で学び取った学術や内外の人的ネットワークは誇るべきものです。これらを基礎に、皆さんの前に広がる実践の世界で大きく飛躍して頂きたいと思います。
皆さんのこれからの長い人生が健やかで豊かなものとなりますこと、そして、将来にわたり新潟県立大学の卒業生としての誇りを持つ先輩、同僚、後輩との良き出会いが数多く生まれることを願っております。本日は、卒業、誠におめでとうございます。
令和5年3月20日
新潟県立大学学長 若杉隆平