令和2年度
2020年度入学生の皆さんへ
新潟県立大学に入学された385名の皆さん、入学おめでとうございます。新入生の皆さんはもとより、皆さんを支えてこられました御家族や関係者の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。これから新潟県立大学の仲間として共に活動できることを本学の教職員一同、大変嬉しく思っています。今、私たちは世界を覆う新型コロナウィルスの感染拡大から人々の生命を守るために、人と人の接触、地域内、地域間、国際間の人の移動を始めとして、様々な社会活動を厳しく制限することを余儀なくされています。皆さんをお迎えする入学式が出来ないことは誠に残念ですが、直面する状況を冷静に理解していただき、ウィルス感染が収束した後には、本学での実り多い大学生活が待っていることを期待し、耐えて頂きたいと思います。
目に見えず、確かな治療法が見つからない新型コロナウィルスの感染拡大に、我々は今、大きな緊張と不安を感じています。しかし、これまで人類は、飢餓、戦争、そして疫病という宿命とも言える苦難に幾度となく晒され、その都度何とか克服してきました。それを支えたのは、先人から譲り受け、弛まぬ進歩を遂げてきた科学の力と差別・偏見を排し、他を思いやる人間性であったと思います。感染の拡大する新型コロナウィルスは、社会に不安と混乱をもたらし、人々から冷静さを奪い取ろうとしています。そうした混乱に対して、皆さんには理性を保ち、人間性を失うことなく日々、行動してほしいと思います。
皆さんが入学する今年は記念すべき年でもあります。創立12年目を迎え、本学に新しい学部として国際経済学部が誕生いたしました。国際地域学部、人間生活学部に新たな学部が加わることにより、大学院国際地域学研究科とともに、本学の教育研究の基盤は一層充実したものになります。
本学は開学以来、「国際性の涵養」「地域性の重視」「人間性の涵養」を教育理念に掲げてきました。その下に、国際的視野、専門力、コミュニケーション力を身につけ、豊かな人間性をもって社会に貢献しうる人材として成長するよう、それぞれの学部、あるいは大学院において充実した教育カリキュラムを展開いたします。国際地域学部では、英語・露中韓言語による国際コミュニケーション力、国際的視野と深い教養、多様な文化の理解力を高めるため教育を受けることになります。新潟は日本海を挟んでロシア、中国、韓国をはじめとする東アジアと直接向き合っています。この地にある本学には東アジアを中心とする国際関係に関して多くの学術の蓄積が有ります。英語はもちろんのこと、ロシア語、中国語、韓国語を皆さんが修得する上において、他に誇る教育プログラムを用意しています。
人間生活学部では、保育・幼児教育人材、社会福祉人材、また、管理栄養士をはじめとする食のスペシャリストとして、高い専門性と実践性を磨くための周到な教育プログラムが用意されています。専門性と同時にこの分野においても国際性を磨くことが重要です。皆さんの先輩には海外での学習経験を積んでいる学生も少なくありません。
新たな国際経済学部では、経済・産業・企業を理解し、分析する能力、データ・情報を読み解き、分析し、エビデンスに基づき説得力のある主張のできる能力、グローバルに活躍できる確かな語学力の3つに重点をおいた教育を行います。国際経済と地域経済の両面において社会を支え、リードする人材に育ってくれることを目標にし、体系的な教育プログラムを展開します。
大学教育は、すぐに役に立つ専門知識を習得することだけを目的とした場ではありません。深い教養を備えた上で専門分野においてこの先自己の能力を伸ばすことの出来る知力を養う場です。大学での教育における重要な部分は、知的訓練を積むことによって、物事の原理を追求し把握しようとする思考習慣を修得することにあると思います。深い教養の基礎の下に実利性や専門性に関する知識を得れば、皆さんが習得する知識は体系化されてゆくでしょう。皆さんが大学で学ぶ最も重要なことは、自らの力で直面する事実を認識し、真の事実であるかを検証する知的営みを身につけることではないかと思います。そうした知的習慣を身につけるならば、皆さんの長い人生は豊かなものとなるでしょう。大学がそのための良き鍛錬の場となることを期待します。
今世界で多くの人々が新型コロナウィルスの感染により、病床に伏し、不幸にも命を落とす人が絶えません。そうしたことを目にするとき、健康であることの重要性を痛切に感じます。また、感染拡大の厳しい状況に直面するとき、人々の間に不信感や差別意識が芽生えることをおそれます。分断や差別からは何も生まれません。お互いの信頼や他を思いやる人間性が如何に大切であるかを強く感じます。本学には、新潟県はもちろん、全国各地から、また、海外から学生が集います。皆さんは、これからの大学生活を通じて、人文社会科学を学ぶ友人、経済学を学ぶ友人、人間生活にかかわる専門分野を学ぶ友人など、多様な友人とふれ合うことになるでしょう。異なる考え方を持つ友人達と知り合い、お互いの違いを理解し、信頼し合える人間関係を構築して下さい。
皆さんの大学生活はこれまで我々が経験しない厳しい環境の中でのスタートになりました。しかし、これを乗り越えないわけには行きません。本学で共に学び、理性と人間性を養い、人生を豊かに生きるための基礎を作り上げていただくことを切に期待します。
ご入学、誠におめでとうございます。
令和2年4月20日
新潟県立大学長 若杉隆平
令和2年度卒業式・修了式学長告辞
本日、新潟県立大学国際地域学部を卒業される学士183名、人間生活学部を卒業される学士77名、大学院国際地域学研究科を修了される修士4名の皆さん、卒業、修了おめでとうございます。
皆さんが晴れて本日のよき日を迎えることができたのは、もちろん皆さん御自身の研鑽によるものですが、この日に至るまでの長い年月にわたり、皆さんの成長を支えてこられたご家族の方々の御支援はなくてはならないものであったと思います。ご家族の皆様にも心よりお祝いを申し上げます。また平素より本学の教育研究にお力添えを下さいます関係者の皆様にこの場をお借りして心よりお礼を申し上げます。
皆さんは、最終学年のこの1年、新型コロナウイルスの感染の拡大により様々な苦難に直面せざるを得ませんでした。それだけに本日の卒業式を大きな歓びと深い感慨をもって迎えたことと思います。そして皆さんは、世界に拡大する新型コロナウイルス感染症の禍の中にあって、人と人との関係や社会の在り様を改めて見つめ直していることと思います。
新型コロナウイルス感染症は、自分だけの感染防止では不十分で、周りの人々の感染も防がなければ、抑止することができません。国にあっても同様で、他国の感染の収束なしには、自国の感染は収束しません。他を顧みずに自らだけを利する行動では結局は自らを良くすることにならないという現実は、地球上に、あるいは同じ社会に共存する我々にとって、お互いを顧みながら行動することがいかに重要であるかを改めて示しています。
感染症から人々を守る医薬品や期待されるワクチンを人々の間であるいは国と国との間で、どのように配分するかは解決しなければならない難しい課題ですが、こうした課題に対してもお互いを顧みながら行動することを拠り所としたいと思います。
新型コロナウイルスの感染を防ぐために、我々は、人と人との距離を保ち、経済や社会活動を抑制することを余儀なくされてきました。人と人とのコミュニケーションが薄れ、また、経済活動の停滞により経済的困窮者が増加し、所得格差が拡大しつつあります。その結果、人の孤立、他者との摩擦や対立の激化、社会不安や社会の分断が起きることを危惧します。こうしたことは避けなければなりませんが、そのためには他者への思いやりと共助の精神に支えられた取り組みが大切です。
科学の発展は我々の取り組みを支えてくれています。皆さんは、この1年、修学あるいは就職活動において大きな変化に直面しました。これまでは講義、ゼミあるいは実習の場において、教師や友人達との対面による議論や情報交換はごく当たり前のことと考えられてきました。しかし、この1年、世界中の大学で授業がオンラインに切り替わりました。本学も例外ではありませんでした。このことが皆さんの修学にどのような影響を与えたかを検証するにはしばらく時間を必要としますが、対面による学習を制限された分のマイナスがあったことは否定できません。
しかし、その一方で、オンラインによる教育は皆さんに新たな選択肢をもたらしたことも確かです。新型コロナウイルスの感染を防止するという直接的な効果にとどまらず、オンライン化は、対面がもつ空間的距離的制約を解消する上で積極的な力を発揮しつつあります。皆さんの中には、海外渡航をせずとも海外の交流協定校の講義を受講し、他国の大勢の学生と交流することを体験した方が少なくないと思います。
20世紀後半の輸送手段の飛躍的発展は、人の移動を大幅に増加させ、世界のグローバル化をリードしてきました。しかし、それに替わって、情報通信技術の飛躍的発展がもたらすオンライン化はコミュニケーションに大変革をもたらし、教育現場だけでなく、ビジネス、医療、働き方、住まい方から日常生活の隅々に至るまで影響をもたらし、社会を大きく変容する要因になっています。皆さんは、今、そうした社会の大変革の入り口に立っています。変化はリスクでありますが機会でもあります。一人一人が社会のイノベーションを担う気概を持って社会に貢献されるよう願っています。
皆さんは本学で多くのことを学び取ったはずです。幅広い視野、高度な語学力、国際社会や文化を理解する専門性、また、子どもの教育や食と健康を担うプロフェッショナルとしての専門能力を身につけ、社会に羽ばたくことになります。大学で修得したものは、単なる知識の集積ではなく、これからの長い人生において学び続ける上で必要とされる知の体系図と言えるものでしょう。本学で学び取った知的体系を基盤として、実践の場で、さらなる飛躍を遂げて頂くことを期待しています。
卒業の年に大きな災いと苦難に直面した皆さんには、互いを思いやる共助の精神と理性ある知力を携えて、より良き社会をつくることに積極的に取り組まれることを特に望みたいと思います。
皆さんのこれからの長い人生が豊かなものとなりますことを、そして、新潟県立大学の卒業生としての誇りを持つ先輩、同僚、後輩との良き出会いが数多く生まれることを願っております。
本日は誠におめでとうございます。
令和3年3月19日
新潟県立大学 学長
若杉隆平