令和5年度
令和5年度入学式学長式辞
新潟県立大学に入学された380名の皆さん、入学おめでとうございます。本学の役員・教職員一同を代表いたしまして、新入生の皆さん、そして皆さんを支えてこられました御家族や関係者の皆様に心よりお祝い申し上げます。小岩新潟県総務部長をはじめ御来賓の皆様には、御多忙の中にもかかわらずご列席を賜り、厚くお礼申し上げます。
今日の晴れの日を迎えるに当たり、皆さんは、この3年間、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に見舞われ、思い切り勉学や課外活動に打ち込むことができない日々を余儀なくされてきたものと察します。それだけに、ようやく感染拡大が収束しようとする中で迎える大学生活に、大きな期待をいだいていることと思います。そうした皆さんをお迎えし、新潟県立大学の仲間としてこれから共に活動できることを私たちは大変嬉しく思っています。
皆さんの学びの拠点となる新潟県立大学は、60年前に創立された県立新潟女子短期大学を母体として2009年に開学し、15年目を迎えます。「国際性の涵養」「地域性の重視」「人間性の涵養」を教育理念に掲げ、進取の学風を持つ高等教育機関として歩んできました。国際地域学部、国際経済学部、人間生活学部の3学部、大学院国際地域学研究科からなる教育研究組織に、この4月1日から大学院健康栄養学研究科、北東アジア研究所が加わりました。健康栄養学研究科の大学院生は第1期生です。北東アジアの中核的研究拠点として開設した北東アジア研究所に新たなファカルティを迎えました。
昨年度は、コロナ禍にあってもオンラインを駆使しつつ、リトアニア、フィリピン、インドネシア、ベトナム、モンゴルの大学との学術交流が新たに結ばれ、学生・教員の教育研究の国際交流はさらに拡大します。また、文部科学省のデータサイエンス産業人材育成プロジェクトが採択され、データサイエンス教育認定校となり、より充実したデータサイエンス教育をめざしています。
皆さんはご自身が選んだ学部、大学院において、これから専門的知識の蓄積とその実践的応用を重ね、将来への基礎を作ることを期待していると思います。他方で、近年、革新がめざましい自動運転、自動翻訳、高度な計算機能、さらには、チャットGPTのAIと人間の対話に見られるように、難しいとされてきた知的営みにおいてAIや機械が人間を代替することを間近に見て、これからの大学生活でどのような学びをしたら良いかを自問することがあると思います。
このことについて、150年前になりますが、スコットランドの哲学者J・S・ミルが示唆を与えてくれるように思います。ミルは「優れた専門家に必要なのは、事実に関して単に詳細な知識を頭に詰め込んで暗記するのではなく、物事の原理を追求し把握しようとする取り組みである。そして、大学で学ぶべきことは、個々に独立している部分的な知識を関係づけ、それらと全体との関係を考察し、それまで得た知識を体系化することである」と述べています。職業人となるための専門知識は大学において修得する重要なことですが、大学の学びはそれだけではありません。専門知の蓄積といった知的営みを超えて、知を体系化し、個別に学んだことを包括的に捉え、関係づけ,新たな知を創造しようとする精神こそが、大学で育まれる最も重要なものではないかと思います。
「事実は我々の知識の素材であり、精神は知識を作り上げる道具である」といわれます。これまでの皆さんの学びには、事実に関して詳細な知識を詰め込むことが少なからずあったかもしれませんが、これからは受け身の学びから、自らの課題を意識した積極的な学びの世界に入って下さい。そうした皆さんに対して本学の教職員は惜しみないサポートをいたします。
昨年度に新しい校舎が増設されたキャンパスに、1500名の優れた学部学生・大学院生が、新潟県はもちろん全国各地から集います。海外からの留学生も学びます。皆さんはこれまで経験してこなかった多様な人材とふれあうことになるでしょう。「自分と異なる人間と接することの価値、なじみのない思想や行動様式に出会うことの価値は、高く評価し過ぎることはない」と言われます。友人達とのコミュニケーションを大切にし、お互いの違いを理解し合う寛容さをもって、良き人間関係を構築して下さい。
大学生活を有意義に送るために皆さんには健康であってほしいと思います。3年以上にわたって世界中に流行した新型コロナ感染症はようやく収束に向かい始め、社会における対応が5類となる日も間近です。こうしたことを受けて、学内においては、これまで奨めてきたマスクの着用はこの4月から個人の判断に委ねることと致しました。表情豊かにコミュニケーションを深められることは喜ばしいことです。しかし、ウイルスが完全になくなったわけではありません。感染防止に必要な基礎的なことはしっかり守っていただくと共に、必要な場合にはマスクの着用に心掛けてください。感染防止対策に関する大学からの情報の下に、共に安心して学ぶことのできる修学環境を実現したいと思います。
皆さんが、知力と人間力を蓄え、人生を豊かに生きるための基礎を作り上げる門出の日を迎えたことを心からお祝いし、これからの大学生活に期待いたします。
令和5年4月6日
新潟県立大学長 若杉隆平
令和5年度卒業式・修了式学長告辞
本日ここに学士の学位を取得して卒業される360名の皆さん、修士の学位を取得された5名の皆さん、おめでとうございます。新潟県立大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。
皆さんが晴れて本日のよき日を迎えることができたのは、もちろん皆さん御自身の努力と研鑽によるものですが、ご家族をはじめ、皆さんを励まし支えて下さった方々の長きにわたる御支援はなくてはならないものであったと思います。ご家族や御支援下さった皆さまに感謝とお祝いの気持ちをお伝えしたいと思います。また、本日の式典に御臨席賜りました橋本新潟県副知事をはじめ御来賓の皆様に心からお礼を申し上げます。
本日卒業される皆さんの多くは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まった時期に入学し、収束するまでの期間を本学で修学することになりました。入学式を開催出来ず、授業の多くはオンラインによる遠隔授業に変わり、教師や学生仲間との交流、海外留学、海外からの留学生の受入は大きな制約を受けることになりました。大学全体を感染症から守るために、大学をワクチン接種会場としたこともありました。皆さんは、そうした困難を乗り越え、忍耐強く学業を続け、卒業の日を迎えられたことに大きな喜びと感慨を感じられていることと思います。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックの過程で皆さんは大きな変化を経験しましたが、改めて、今日の社会に起きている変化を見つめたいと思います。
感染症の世界的流行の中で社会活動を継続しようとする努力の結果、デジタル化は社会に行き渡り、社会を豊かにすることにもなりました。教育研究の現場においても、ICTを駆使したオンラインによる新たな情報伝達手段の発達は、皆さんが修学し、あるいは、国際交流を進める上で大きな拠り所となりました。しかし、科学技術の発展がそこに留まったわけではありません。コンピュータ機能の飛躍的向上によって大規模データを利活用できるようになり、また、AIの急速な進展に見られるように、人類がICTやコンピュータを一方的に駆使する時期から、自らが生み出した革新的技術とどのように向き合うべきかが問われる時代に入っています。皆さんは、これまで経験したことのない社会の変異と向き合わなければなりません。
新型コロナウイルス感染症のパンデミックは世界中の人々の健康に多大な災禍と犠牲をもたらしただけでなく、人々の考えや行動様式にも多大な影響をもたらしました。感染を防止する過程では、社会に排他的な考え方や行動が芽生え、社会に分断が生まれるのを目にしました。こうした社会の変化は、感染症が収束しても弱まってはいません。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に見られるように、国際社会では一国中心の覇権主義が平和な国際関係を大きく損なう事態が依然として続いています。世界経済においても、長年にわたり築き上げてきた自由で開放的なグローバル経済が後退し、新たな分断が見られます。
皆さんがこれから直面する社会はこれまでになく大きく変化するものと思います。「変化が起きたときに、その変化に最も適応したものが生き残る」という言葉があります。これは、1859年にチャールズ・ダーウィンが『種の起源』において、種が多様であれば、様々な変化にも適応して、進化していくという科学的経験則を述べたものです。このことを社会の変化に置き換えると、社会に生ずる様々な変化に適応し、進化してゆくには、多様な考え方や多様な個の存在を社会の中で持ち続けるのが大事であることを意味するものと考えられます。他者を排除し、画一化することによって乗り越えようとすれば、変化に良く適応することが難しくなります。多様な個々の存在が尊重され、一人一人が独自性を発揮して活躍できる社会こそ、変化によく適応しうるものでしょう。変化する時代に船出する皆さんには、多様性を認め合う社会を形成する一員であっていただきたいと思います。
皆さんは本学において良き教師や友人に恵まれ、幅広い教養教育、国際性の基礎となる言語教育、そして、学部、研究科における専門教育を受けることを通じて、多くを学び取って、今日の卒業、修了の日を迎えました。国際地域学部の皆さんは高度な語学力、国際社会や文化を理解する専門性を修得しました。人間生活学部の皆さんは子どもの教育、社会福祉や食と栄養を通じた健康管理を担うプロフェッショナルとしての専門能力を身につけてきました。そして第1期生として巣立つ国際経済学部の皆さんは、経済学や情報分析の基礎力と国際経済、地域経済に展開する応用力を身につけて社会に出ることになります。また、大学院において身につけた高度な専門力は、学術や実務において皆さん一人一人が自立する上での基礎となることでしょう。皆さんが本学において学び得た知力と人間性は、間違いなく、これから皆さんが多様な一人として社会で活躍し、社会を担い、リードする上での確固とした基盤となります。
今、大学を離れる皆さんの目の前には、これまでの大学生活で経験したよりも遙かに大きな可能性が広がっており、皆さんにはそれを実現する力が備わっています。皆さんの晴れの船出を祝福するとともに、皆さんがこれからの人生において、新潟県立大学卒業生・修了生としての誇りをもって、それぞれの力を発揮されていきますことを心より期待いたします。
本日は卒業、修了おめでとうございます。
令和6年3月25日
新潟県立大学 学長 若杉 隆平