令和6年度

令和6年度入学式学長式辞

新潟県立大学に入学された393名の皆さん、入学おめでとうございます。教職員一同を代表いたしまして、新入生の皆さん、そして皆さんを支えてこられました御家族や関係者の皆様に心よりお祝い申し上げます。新たな大学生活へのスタートラインに立っている皆さんをお迎えし、これから新潟県立大学の仲間として共に活動できることを大変嬉しく思っています。

皆さんが学ぶ新潟県立大学は、他の大学には見られないユニークな学府です。国際関係、比較文化、ロシア語・中国語・韓国語の言語学を専門領域とする国際地域学部、国際経済・地域経済にこれから新たに加わるデータサイエンスを専門領域とする国際経済学部、子どもの教育や社会福祉、食と栄養を通じた健康管理を専門とする人間生活学部があり、また、国際地域学、健康栄養学に関しては大学院において高度な専門教育を行います。さらに、北東アジアに関する研究拠点として北東アジア研究所を設置しています。中国、韓国、北朝鮮、ロシア、モンゴルの北東アジア地域と深い関係を有する新潟を象徴する研究拠点です。これらの学部・大学院・研究所の他、附属図書館、国際交流センター、地域連携推進センターなど皆さんの修学を横断的に支える教育研究組織が揃っており、教職員一同、皆さんが本学の一員となることを楽しみにしています。皆さんには、このような新潟県立大学で学ぶことに「誇り」をもって大学生活をスタートしていただきたいと思います。

新潟県立大学の教育は国際性と地域性を重視します。皆さんの大学は新潟という一つの地域に立地します。しかし地域は閉ざされたものでなく、国内はもちろん世界の各地域と結ばれ、オープンな国際社会を形成しています。豊かな国際性とは、それぞれの地域を良く理解し、それぞれの地域の独自性を尊重し、協力し合うことに他なりません。地域性と国際性とは表裏一体のものです。その際必要とされるのは、異なる地域の歴史、文化、社会、言語を理解する語学力とコミュニケーション力です。英語はもちろんのこと、ロシア語、中国語、韓国語においてもユニークな教育プログラムを用意しています。基礎力を身につけた後には海外の大学で学ぶことにも挑戦してもらいたいと思います。

大学に入学されたみなさんの学びは、入学試験を念頭に置いたこれまでの学習とは異なったものになります。皆さんの中には生成AIを活用したことのある方は少なくないと思います。情報通信技術の革新やコンピュータ機能の飛躍的な向上の結果、AIは膨大な知識や情報を収集、処理する点で人間の能力を超え、新たな事柄を創造する能力さえ備え始めています。人間の能力を超えようとするAIが身近なものとなっている時代に生きる皆さんには、AIの機能を正しく評価し、利用することの出来る知力が必要とされます。

AIは一例ですが、これから専門分野の修学を始める皆さんは、物事の原理を追求し、真理にたどり着くことを目指して、事実を正しく把握し、判断する観察力や推論する力、そして検証する力を養うことになります。どのような専門分野であっても、専門的知識を断片的に習得することに終始するのではなく、皆さんの中で知を体系化することが重要です。皆さんが大学において学ぶことは、そうしたことへの知的訓練であると言えます。

20世紀の思想家オルテガは、大学の使命について、「大学生活は、皆さんが社会の一員として責任ある行動を取る上で必要な素養を培う場であり」「学生が主体的に学習に取り組むことが重要であり、大学は学生に自らの学びを追求する環境を提供する必要がある」と述べています。こうした考え方は今日の大学のあり方にも通じます。

新潟県立大学は、1963年に創立された県立新潟女子短期大学を前身として2009年に開学し、本年15周年を迎えます。この間、新潟県をはじめとする多くの人達の御支援によって、本学の教育内容、教授陣、教育施設は格段に整備され、充実してきました。少人数の教室では、教師と学生、学生同志の間に様々な協働が生まれ、優れた教師や良き仲間たちがとともに切磋琢磨しながら過ごす教育環境は、本学の誇りとするものです。皆さんには、こうした本学の教育環境を存分に生かし、様々な学問分野に触れていただき、議論を通じて自らの考えを深めていただきたいと思います。

そして皆さんが充実した大学生活を過ごすには、何よりも心身共に健康であってほしいと願います。大学は皆さんが健康で豊かな大学生活を過ごすことが出来るよう支援いたします。

これからの学生生活が、知力と人間力を高め、皆さんをたくましく成長させるものとなることを心から期待しています。

本日は入学おめでとうございます。

 

令和6年4月6日

新潟県立大学学長 若杉隆平

 

令和6年度卒業式・修了式学長告辞

本日ここに学士の学位を取得して卒業される379名の皆さん、修士の学位を取得された6名の皆さん、おめでとうございます。新潟県立大学の教職員を代表して心からお祝いを申し上げます。

皆さんが晴れてこの日を迎えられたのは、並々ならぬ努力と研鑽の賜物であることは言うまでもありません。しかし、その陰には、常に皆さんを励まし、支え続けてくださったご家族をはじめとする多くの方々の温かいご支援がありました。この場をお借りして、ご家族、そしてご支援くださった全ての方々に、深く感謝と敬意を表したいと思います。また、本日の式典にご臨席賜りましたご来賓の皆様にも、心より御礼申し上げます。

本日卒業される皆さんの多くは、新型コロナウイルス感染症という地球規模でのパンデミックの渦中に入学されました。皆さんの大学生活の幕開けは、決して平坦なものではありませんでした。キャンパスは静寂に包まれ、オンライン授業が日常となり、友人との交流、海外留学、留学生との交流など、大学生活の醍醐味とも言える経験が大きく制限されました。そうした中で、感染症から自らを守るため、教職員学生が協働して大学自らがワクチンの集団接種を行うという経験もしました。皆さんは、こうした困難を乗り越え、決して希望を失わず、互いに支え合い、学びを深め、晴れて卒業の日を迎えられました。忍耐強く学業を全うされたことに心から敬意を表したいと思います。

皆さんは本学において良き教師や友人に恵まれ、幅広い教養教育、国際性の基礎となる言語教育、そして、学部、研究科における専門教育を受けることを通じて、多くを学び取ってきたと思います。国際地域学部の皆さんは高度な語学力、国際社会や文化を理解する専門性を修得し、人間生活学部の皆さんは子どもの教育、社会福祉、食と栄養を通じた健康管理を担うプロフェッショナルとしての専門能力を身につけてきました。国際経済学部の皆さんは、経済学を基礎として国際経済、地域経済に取り組む応用力とともに情報分析力を身につけて社会に出ることになります。また、大学院において身につけた高度な専門力は、学術や実務において皆さん一人一人が自立する上での基礎となることでしょう。このように皆さんが本学での学びを通して修得した知力は、これから皆さんが社会で活躍し、責任ある役割を担う上で確固とした基盤となるでしょう。

皆さんは大学での学びを通して、デジタル化が急激に社会に行き渡り、コンピュータ機能の飛躍的向上によって大規模データを利活用できるようになったことを実感したと思います。更には、生成AIが急速に進歩し、人間がICTやコンピュータを一方的に駆使する時期から、人間自らが生み出した革新的技術とどのように向き合うべきかが問われる時代となりつつあります。

私たちホモ・サピエンスが他の動物と決定的に異なるのは、目には見えないが、目に見え触ることのできる物以上に大きく人々が共有する枠組みや制度・秩序を創り出す能力であり、それによって大規模に人々が協力する仕組みを形成する能力にある、と言われます。国家、宗教、企業、法律、貨幣など社会を形作る基本的制度がそれに該当するでしょう。そうしたものを生み出す能力は人間だけに備わっており、それを支えるのは人々の間での情報の共有であると言われます。

ところが著しい革新を遂げる生成AIは、自ら情報を作り上げることにより、人間のみが保有するとされた能力さえも獲得しつつあります。AIが邪悪な意図をもってフェイク情報を生成し、拡散することによって偽の社会秩序や制度を作り上げ、人間を欺くことも不可能ではありません。千年前の平安時代の人々の一生分の情報量を現代ではたった1日で得ると言われるほど、私たちは日々大量の情報に接しています。おびただしい量の情報に麻痺することなく、何が真実であり、何が偽であるかを区分し、判断することが今ほど重要な時期はありません。

19世紀にありながら哲学者のジョン・スチュアート・ミルは、個々の部分的知識を積み重ねるだけでなく、それらと全体との関係を考え、部分的知識をつなぎ合わせ、全体がいかに構成されているかを包括的に見る力こそが大学において学ぶべきことである、と述べています。皆さんは、本学での修学を通じて、専門的知識や技能を修得するとともに、良識と理性に基づき、個々の知識を俯瞰し、全体を包括的に観察し、識別する知の総合力を培ってきたと思います。そうした知力を活かすことが、おびただしい量の情報が作り出される今日の社会において皆さんを誤りなく導く上で、大きな助けになると思います。

大学の門を出、歩み始める皆さんには、これまでと違った社会活動が待ちうけています。他者との競争に身を置き、複雑な利害関係に直面することもあるでしょう。そうした社会を穏やかに過ごすことは大切です。アダム・スミスは、個人の利己的行動が見えざる手によって導かれ、社会を豊かにすると述べていますが、同時に、人々が社会生活を営む中で自他の差別なく人の行為を公平に観察し、評価する公平な心が育つならば、人々の間に道徳的共感が生まれ、お互いを理解し、秩序だった心地よい社会が形成される、とも述べています。

競争は独り占めを目指す不正な争いであってはなりません。また、グローバル社会を構成する私たちは、言語、文化、宗教、社会制度において多様であることを認識しなければなりません。お互いの多様性を認め合い、それぞれの長所を生かすことが、地球規模の穏やかな社会を形成する上で不可欠です。自他の区別なく公平な心で観察し、人々の間で道徳的共感を形成することが、皆さんがこれからの社会生活を送る上で大切であると思います。

今人類はこれまでにない多くの課題に直面しています。社会の不確実性も増しています。しかし、新たな可能性が生まれていることも見逃すべきではありません。時として、予想もしないことに遭遇したり、思うように行かなかったりして、戸惑うことがあるかも知れませんが、それは次の飛躍への始まりと受け止めてほしいと思います。静かに行くものは健やかに行く、健やかに行くものは遠くまで行く、という言葉があります。これまで皆さんが大学において学んできたことを想い起こし、静かに、忍耐強く、そして皆さんの前に広がる豊かな可能性に向かってタフにチャレンジし、遠くまで歩み続けてほしいと思います。

皆様が常に健康であり、新潟県立大学卒業生・修了生としての誇りをもって、これからの長い人生を豊かなものとされることを願い、皆様の晴れの船出を祝福する辞といたします。

本日は卒業、修了おめでとうございます。

令和7年3月21日

新潟県立大学 学長 若杉 隆平