コラム

2019年

コンピュータと知能(2019年12月)

話題のトピックス

 コンピュータと知能に関する最近の話題を取り上げてみます。皆さんもどこかで聞いたことがあるかもしれませんが、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念を未来学者が述べたことです。これはコンピュータによる人工知能が人間の知能を超える日が2045年に起こり、人間社会が大きく変わるという意味です。さらにオックスフォード大学の先生が「雇用の未来—コンピュータ化によって仕事は失われるのか」という論文で702種類の職種について、コンピュータによって取って代わられる確率を計算したことが週刊誌でセンセーショナルに取り上げられています。しかし、考えてみると産業革命以来幾度となく技術革新により、それまでの仕事がなくなり新しい仕事が生まれてきたことは人類が経験していることです。例えば、コンピュータの導入により、算盤を使った経理の計算業務はなくなりましたが、経理でのデータ入力、データ確認や決算はどの企業でもまだ行っています。ただ、膨大な経理データの計算はコンピュータの仕事で、コンピュータの計算能力は、遥かに人間を超えています。計算した結果として、予算をオーバーした経費があるので、経費の支出を抑制しようとする判断は人間の仕事です。参考文献に上げた著書の中でも、「基本的にコンピュータがしているのは計算です」、だから「人工知能(AI: Artificial Intelligence)はまだどこにも存在していない」と述べられています。たぶん、多くの人はそのように考えていると思いますが、コンピュータの機能という別の観点からこの問題を考えてみましょう

(参考文献) 新井 紀子 著 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 東洋経済新報社 2018


便利なコンピュータ

 コンピュータは、日本語で計算機と呼ぶように当初は計算能力が主な機能でしたが、その後、コンピュータの能力が長足の進歩を遂げ、アルファベット以外の言語である日本語が使えるようになり、さらには文章、音声、音楽、画像、動画などあらゆるデータを扱うことができる通信機能を備えたメディアに進化しました。皆さんが使っているスマートフォンは、これをコンピュータであるとは意識せず使えるものになりました。なんとも便利なコンピュータになったものです。インターネットを使えば、日本にいながらアメリカの街並みを見ることも可能となりました。最近は、音声でスマートフォンに「近くのカフェ」と指示を与えれば地図上に店の位置とどんなメニューがあるかを示してくれる音声入力もできます。これらの便利な機能も究極は「基本的にコンピュータがしているのは計算です」ということになります。ただ、どんな便利な機能も計算には違いはないのですが、音声認識を例にとると何段階かのプロセスを経て、スマートフォン(コンピュータ)に指示を与えています。まず音声はマイクロフォンに伝えられた後、デジタル化(0と1の羅列)され、デジタル化された信号を機械学習システムに認識させて文字列に変換されます。機械学習システムとは、膨大な音声データ(ビックデータと呼ばれる)を学習させることにより統計的に音声データを文章という文字列に変換させるソフトウェアです。機械学習システムの一種であるディープ・ラーニング・システムは、チェス、将棋、囲碁で名人にも勝つことができるようになって、世界的に脚光を浴びるようになった所謂AI(人工知能)の核心部分です。このシステムは、画像認識でも使われ、顔認証として実用化されています。皆さんも使ったことがあると思いますが、Googleの翻訳機能も進化していて、ずいぶんとまともな翻訳をできるようになったのもディープ・ラーニング・システムのお陰といっても良いと思います。


新たな問題

 さて、ここで問題です。これらの便利な機能は知能のなせる業といって良いでしょうか。コンピュータが知能を持ったといっても良いでしょうか。私は、このような問いには意味がないと考えています。人間の知的活動の一部をコンピュータが代替し、人間の活動をコンピュータが支えてくれているからこそ便利だと思えるのではないでしょうか。それは、コンピュータが誕生した時から備えている計算機能についても同様であると考えています。しかし、今までは、人間が最終判断をするということで成り立っているので、便利な機能と呼ぶことができ、自動車と何ら変わらない機械でした。これを飛び越えるようなことが起きようとしています。


コンピュータによる判断

 今、世界で自動運転車の開発が進み、一部では公道実験も行われています。法律家の間では、自動運転で事故が起きた場合の責任は、だれが負うべきかで論争となっています。今までは人間が判断して車を操作していましたが、ディープ・ラーニング・システムを搭載した自動運転システムが車を操作した場合の事故の責任はだれが負うべきかの問題です。法律が定めている処罰対象は、あくまで人間です。自動運転システムを開発した企業あるいは開発者が責任を負うことにしたら自動運転車を作る企業はなくなるでしょう。あらゆる場面を想定した完全無欠の自動運転システムを開発することは、統計的な学習システムである限り、不可能です。ずいぶんと便利な機能としてスマートフォンに搭載されている「人工知能」は、私たちに厄介な問題を投げかけてくれるものです。技術の進歩が新たな社会変革を我々に迫ってきています。


次回をお楽しみに!